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東京高等裁判所 平成8年(ネ)3302号 判決

控訴人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

玉木一成

被控訴人

遠井義一

右訴訟代理人弁護士

風間幹夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  右取消しにかかる被控訴人の請求を棄却する。

3  被控訴人は控訴人に対し、金二七〇万円及び内金五〇万円に対する平成六年九月二八日から、内金二二〇万円に対する同年一〇月六日から各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え(控訴人は、当審において被控訴人に対する請求額を金二七一万円から二七〇万円に減縮した。)。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  第3項につき仮執行宣言

二  被控訴人

主文同旨

第二  当事者の主張

一  原審平成七年(ワ)第二五七号事件(以下「甲事件」という。)

1  被控訴人の請求原因

(一) 被控訴人は、肩書住所地で「国際ビジネスセンター」の名称で、結婚仲介を業としている。

(二) 被控訴人は、平成六年九月、控訴人との間で国際結婚を斡旋仲介する旨の契約(以下「本件仲介契約」という。)を締結し、控訴人は被控訴人にその費用として次のとおり金員を支払う旨約した。

結婚総費用 二七〇万円

別途成婚料 三〇万円

右の結婚総費用としては、現地における見合い及び結婚式等の手続のため二回の中国渡航が予定されていること、日本国内における手続は控訴人が行うが、そのために被控訴人の同行援助などを要する場合の費用は別途負担となることが定められていた。

(三) 被控訴人は、平成六年一〇月、本件仲介契約の履行として、控訴人を見合いのため中国へ渡航させた。控訴人は、そこである中国人女性と見合いし婚約に至ったが、帰国後控訴人側の事情からその女性との結婚に難色を示したので、その女性との結婚には至らなかった。

(四) 被控訴人は、平成七年四月一〇日、本件仲介契約の履行として、控訴人を見合いのため再度中国へ渡航させ、そこで中国人女性乙梨花を紹介し、両者は婚約するに至った。その後、被控訴人は結婚式等のため同年五月一三日控訴人を中国へ渡航させ、両者は上海のホテルで結婚式を挙げ、控訴人は帰国後同月一九日付けで日本国内で乙梨花を日本の戸籍に入籍する手続をした。

(五) 以上の経過の中で、控訴人が普通であれば二回の渡航で済むところを三回渡航したので、被控訴人は別紙「甲野太郎氏未払費用明細(立替分)」(但し、成婚料及び慰謝料部分を除く。以下単に「別紙明細」という。)のとおり一回分の渡航費用二四万一〇〇〇円を余計に支出し、また、控訴人は、国内における諸申請手続のための同行援助などを依頼したので、別紙明細のとおり合計八万〇二六〇円が別途負担となった。右のうち余分に要した渡航費用一回分については、本件仲介契約において、現地における見合いの後、男性側の自己本位の理由により成婚に至らなかった場合は、そのために要する費用は控訴人の負担とする旨の約定があったものである。

(六) よって、被控訴人は控訴人に対し、未払である別途成婚料三〇万円と前記立替費用等合計三二万一二六〇円の合計六二万一二六〇円の支払を求める。

2  請求原因に対する控訴人の認否と反論

(一) 請求原因(一)は、認める。

(二) 同(二)の前段は認め、後段の結婚総費用の内容の点は否認する。

(三) 同(三)の事実中、控訴人と中国人女性との結婚について控訴人側の事情だけで成婚に至らなかったとの点は否認し、その余は認める。

成婚に至らなかったのは、最初紹介された中国人女性と見合いし、控訴人は気に入って婚約したが、その翌日になってその女性の母親が日本人男性との結婚に反対したため破談になったこと、被控訴人から二番目に紹介された中国人女性と不本意ながら婚約したが、被控訴人側の調査ミスで控訴人が離婚後六か月を経過していないとの理由で中国の結婚登記所での受付を拒否されたこと(この原因としては、被控訴人側の調査不足により、離婚証明などの手続は中国国内ではできず、日本国内で済ましておかなければならなかったのにそれをしていなかったこともある。)等により、控訴人において帰国後二回目に婚約した女性とそのまま結婚することに気が進まなくなり、被控訴人もその女性との結婚はやめて別の女性と見合いしたほうがよいと勧めたこと等の理由による。したがって、この点の責任はすべて被控訴人側にある。

(四) 同(四)は、認める。

(五) 同(五)は争う。合計三回渡航したのは、被控訴人側の責任によるものである。また、被控訴人が行った国内の手続のうち、別紙明細のように平成七年三月二三日、三月二八日、四月七日に日本の外務省や中国大使館に赴いたのは、いずれも離婚証明などの手続のためで、従前は中国国内で可能であったものが、その後日本国内で済まさなければならなくなったことによるものであり、結婚届や結婚証翻訳料も入籍をするために必要な手続の一つであるから、支払済みの結婚総費用に含まれるべきものである。

また、成婚料は、結婚した中国人女性の入籍だけでなく、被控訴人側において乙梨花を現実に来日させ控訴人と同居させてはじめて支払義務が発生すると解すべきである。しかるに、被控訴人らはいまだこの債務を履行していない。

3  成婚料に関する被控訴人の反論

成婚料に対する控訴人の主張は否認する。成婚料は、紹介した相手の入籍により支払義務が発生する。また、そもそも日本の戸籍に入籍した乙梨花が未だ来日せず控訴人との同居に至っていないのは、乙梨花が早期の来日を希望しているのに控訴人の側で渡日を延期するよう手紙を出したり、具体的な出迎えの日取りを連絡しないなど控訴人側の一方的な変心によるものである。

二  原審平成八年(ワ)第二八号(以下「乙事件」という。)

1  控訴人の請求原因

(一) 本件仲介契約の公序良俗違反による無効

控訴人は、被控訴人との間で平成六年九月に、中国人女性との結婚を斡旋仲介する本件仲介契約を締結し、同月二八日に五〇万円を、同年一〇月六日に残金二二〇万円を支払った。

本件仲介契約の内容の内には、被控訴人において、①控訴人が中国に渡航するのに必要な旅券、ビザの申請、取得等を行うこと、②中国の日本領事館において独身証明書などの結婚に必要な書類の申請、受領を代行すること、③控訴人と結婚した中国人女性が日本に来日できるようにするために必要な書類の作成、諸手続の代行、日本戸籍に登載されるための必要な申請書類や添付書類(中国の結婚証明書の翻訳を含む。)の作成、ビザの取得申請等を代行することが含まれている。

これらの行為は、まさに官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類を作成することであって、被控訴人は、国際ビジネスセンターと称して、これらの書類作成行為を不特定多数の者から対価を得て依頼を受け、反復継続しているものであるから、行政書士法一九条一項に違反する。本件仲介契約も被控訴人が行政書士法一九条一項に違反する違法行為の一つとしてなされたもので、強行法規に違反し公序良俗に反するから無効な契約というべきである。

したがって、被控訴人は控訴人に対し、不当利得として受領済みの二七〇万円を返還する義務がある。

(二) 債務不履行による解除

前述のように、本件仲介契約の内容としては、結婚した中国人女性の入籍だけでなく、被控訴人側において結婚した中国人女性を円滑に日本に来日させ、控訴人と同居させるための諸々の手続(在留資格の取得等を含む。)も含むと解すべきである。しかるに、被控訴人はいまだこの債務を履行していないので、控訴人は、平成八年一〇月一六日の当審第一回口頭弁論期日において、本件仲介契約を解除する旨の意思表示をした。

よって、控訴人は被控訴人に対し、原状回復として既払の二七〇万円の返還を請求する。仮に、二七〇万円全額の支払が認められないとしても、被控訴人が履行していない訴外乙梨花の来日するための手続費用、乙梨花の日本への渡航費用、控訴人が別途支出を余儀なくされた成田までのガソリン代等合計一七万七九〇〇円(調停申立て分)について、控訴人は被控訴人に対し債務不履行に基づく損害賠償を求める。

2  被控訴人の、請求原因に対する認否と反論

(一) 控訴人の請求原因(一)中、控訴人と被控訴人との間で、平成六年夏に本件仲介契約が締結され、控訴人から被控訴人に同年九月二八日に五〇万円及び同年一〇月六日に残金二二〇万円がそれぞれ支払われたことは認めるが、その余の主張は否認ないし争う。

本件仲介契約は、控訴人と中国人女性との婚姻の斡旋仲介を本来の目的とするもので、諸官公署への書類の提出はいわゆる国際結婚である関係上右の本来の目的を達成する上に必要とされるものにすぎず、仮に被控訴人がそれらの書類作成を代行する点が行政書士法違反になるとしても、本件仲介契約全体を無効としなければならないほどの公序良俗違反性は認められないというべきである。

(二) 同(二)中、控訴人の解除の意思表示の事実は認めるが、その余の主張は争う。

第三  証拠

証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりであるので、これらを引用する。

理由

第一  甲事件

一  控訴人が、被控訴人との間で平成六年夏に中国人女性との結婚を斡旋仲介する本件仲介契約を締結したこと、並びに控訴人が被控訴人に結婚総費用の名目で、同年九月二八日に内金五〇万円を、同年一〇月六日に残金二二〇万円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

二  証拠(原審甲事件における甲一ないし六、当審提出の甲七の1及び2、八、九、原審乙事件における乙一ないし三、原審甲事件における乙一ないし三、原審における原審甲事件相原告遠井里英並びに原審及び当審における控訴人及び被控訴人の各本人尋問の結果)によれば、本件の経緯として次の事実が認められる。

1  被控訴人は、中国人を妻とし、中国人女性との国際結婚の経験があるところから、かねてから住所地で「国際ビジネスセンター」の名称で、主として日本人男性と中国人女性との結婚を斡旋仲介する結婚仲介業を行っていた。

2  平成六年七月後半から八月はじめにかけて、控訴人は被控訴人に対し、前の妻と同年三月に離婚したので、次は中国人女性と再婚したいとの相談をした。被控訴人は、中国では男性も離婚後六か月間は婚姻受付を拒否されることを同業者等から聞いていたので、控訴人に対しては離婚後六か月を経過した九月になってまた詳しく相談に乗ると伝えた。控訴人は、同年八月七日にとりあえず一万円の入会金を支払って被控訴人の会員となった。

3  同年九月上旬になって、被控訴人は控訴人から再度相談を受けたので、中国渡航の準備として、パスポートや戸籍謄本などの必要書類を準備するよう指示し、一〇月一〇日に中国上海に渡航して見合いすることとし、九月二八日に控訴人から結婚総費用内金として五〇万円を受領し、そのころ旅券、ビザの申請と航空券の予約をした。なお、一〇月一日ころ、被控訴人は控訴人から「勤め先の社長が在職証明書を発行してくれない。」と訴えられたため、被控訴人を勤め先として控訴人のために在職証明書を発行した。

4  控訴人は、一〇月六日に結婚総費用残金二二〇万円と戸籍謄本を被控訴人に持参した。被控訴人が戸籍謄本を点検したところ、控訴人は平成六年三月二九日に前々妻花子と離婚し、同年四月二五日に前妻良子と婚姻し、同年九月七日に良子と調停離婚していたことが判明した。被控訴人はこれでは中国の結婚登記所では申請の受理を拒否されるかもしれないと控訴人に伝えたが、控訴人の中国渡航の希望が強く、既に一〇月一〇日の航空券やホテル等も予約済みであったので、被控訴人は控訴人に対し、とりあえず中国への渡航と見合いは実行するが、仮に結婚登記申請が受理されなかった場合は、再渡航は離婚後六か月を経過した後とし、そのときに結婚式を行い結婚登記をするとの了解を得て手続を進めることとした。

5  控訴人と被控訴人は一〇月一〇日に中国に渡航し、控訴人はあらかじめ資料や写真等で結婚相手の候補としていた二、三名の中国人女性と見合いした。控訴人は最初に見合いした中国人女性が気に入り、婚約したが、翌日の朝になってその女性の母親が反対したため破談となった。そこで、控訴人は被控訴人からもう一人の張という中国人女性との結婚を勧められ、控訴人も承諾して、中国の結婚登記所に結婚登記の申請に赴いたところ、控訴人が離婚後六か月を経過していないとの理由で結婚登記申請の受理を拒絶された。また、その際、従前と手続が変わって日本国内(外務省、中国大使館)で離婚証明書とその認証を得ておく必要があることが判明した。そこで、控訴人と被控訴人は、結婚式と結婚登記は離婚後六か月を経過した後に再渡航した際に行うこととし、張にその旨伝えて帰国した。

6  ところが、帰国して間もなく、控訴人は、張とは結婚する気がおこらない、もっと綺麗な人がいいと言い出した。被控訴人は控訴人を諌めて張との結婚の話を進めるよう説得したが、控訴人の拒絶の意思は固く、結局被控訴人は張との結婚の話を破談とすることとした(被控訴人は、後に張に五〇〇〇元の詫び料を支払った。)。

7  平成七年二月中ころ、控訴人は被控訴人に対し、再度の見合いを希望した。被控訴人は、四月九日に中国に渡航して見合いをさせることとし、三月末に航空券とホテルの予約等の手続をした。そして、離婚証明書の認証の手続のために、控訴人と被控訴人は同道して三回(三月二三日、二八日、四月七日)、東京の外務省や中国大使館に赴いた。

8  同年四月九日に控訴人と被控訴人は中国へ渡航し、控訴人は予め写真などを見せてもらっていた三名ほどの中国人女性と見合いし、その結果乙梨花という女性と結婚することになり、四月一二日に結婚登記所での登記も受理された。その後五月一三日に控訴人は結婚式のため再渡航し、結婚式を挙げた。

9  控訴人は、五月一九日に送られてきた中国側の結婚証明書等を持参して下妻市役所に乙梨花の入籍のための手続に赴いたが、市役所では右結婚証明書の日本語訳が必要との理由で受理を拒まれた。そこで、控訴人はその場で電話により被控訴人に中国側の結婚証明書の翻訳などの入籍手続の代行を依頼し、その結果届出は受理されて、乙梨花は同日控訴人の戸籍に結婚証書の提出が記載された。

ところで、本件仲介契約の具体的内容を示したものと認められる「国際結婚申込誓約書」と題する書面及び同添付の「国際結婚費用」明細(原審甲事件における甲三。同事件における乙二にも同じ費用明細が添付されている。)によれば、控訴人と被控訴人との本件仲介契約においては、結婚総費用二七〇万円の内訳として、第一回渡航費用(見合いと結婚登記申請のための成田・上海航空運賃、ホテル代等)、第二回渡航費用(その後結婚式を挙げるための航空運賃、ホテル代、結婚披露宴費用等)及びその他(花嫁の渡日までの準備費用補助、三か月の日本語学校通学費用等)が掲げられ、右「国際結婚申込誓約書」には中国人女性との結婚が不成立の場合についは、「現地において見合いの結果、女性側の理由により不成立の場合には当センター(被控訴人)側で責任をとるが、男性側の自己本位な根拠のない理由によるものについては、責任はとらず、その為に発生した費用等については全額負担していただきます。」との記載がされていることが認められる。そうすると、控訴人と被控訴人との本件仲介契約においては、結婚総費用としては二回の中国渡航が予定されていたというべきであり、男性側の個人的好み等の理由から見合いの女性がいずれも気に入らなかったり、婚約後個人的理由から破談にした場合などについは、そのために余計に支出した渡航費用などは男性側で負担することが約束されていたというべきである。

ところで、控訴人が合計三回中国渡航を要したことについは、内一回は最初の渡航において控訴人側においていったんは張という女性との婚約をしながら、帰国後控訴人が女性に対する容貌の好み等の個人的理由から翻意して破談としたものと認められる。そうすると、このために増加した費用は控訴人の負担となると解するのが相当である(控訴人は、破談の理由として、最初気に入った女性との結婚が母親の反対で駄目になったことや、張との結婚登記が離婚後六か月を経過していないことを理由に拒絶されたことなどを挙げ、右破談には被控訴人も賛成していたと主張をする。しかしながら、張との結婚の破談の原因が控訴人の個人的好み等の事情によると解すべきことは前記認定のとおりであるし、張との破談を被控訴人も賛成したとの事実も本件証拠上認められない。そして、控訴人においていったん張との婚姻を承諾した以上、張との結婚を破談にせず手続をそのまま進めれば、再渡航の時期は若干遅れたにせよ、その後一回の渡航で手続は完了したはずであるから、中国渡航合計三回分のうち一回分の費用について控訴人の追加支払を求める被控訴人の請求は理由があるというべきである。)。

また、証拠(原審甲事件における甲三及び乙二、当審における甲八、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果)によれば、控訴人が被控訴人に支払った結婚総費用は原則として中国への渡航費用、中国国内での旅費、滞在費などの諸費用に限られ、被控訴人から控訴人に対しては、日本国内における費用は別途負担となる旨が説明されていたことが認められる。そうすると、本件において被控訴人が控訴人に対し請求している、①被控訴人が控訴人のために平成六年一〇月三日に在職証明書を作成した費用、②被控訴人が控訴人に同道して三回(平成七年三月二三日、同月二八日、四月七日)東京の外務省や中国大使館に赴いたことについての日当、交通費等の費用(これは、日本人離婚男性が中国人女性と結婚する場合、中国での結婚登記の前提となる日本の外務省や中国大使館における離婚証明の認証を取得するための実費であると認められる。)、③平成七年五月一九日の下妻市役所における乙梨花の入籍のための中国の結婚証明書の翻訳料や出張料、以上①ないし③の合計八万〇二六〇円は、被控訴人が控訴人の依頼により日本国内で負担した実費であると認められるから、被控訴人は控訴人にこれらの支払を求めることができるというべきである。

なお、控訴人は、これらの費用はいずれも中国人女性との国際結婚のために不可欠の手続費用であるから、当然結婚総費用の中に含まれているとみるのが相当であると主張するが、在職証明書は控訴人の場合にのみ必要な書類であり、離婚証明書は離婚男性だけに必要な書類であって、いずれも誰でも必要とは限らず、中国側の結婚証明の翻訳は日本国内における手続のために必要な書類であるから、この点の控訴人の主張は採用できない。

そうすると、被控訴人の渡航費用一回分及び国内諸実費の立替費用等合計三二万一二六〇円の請求は理由がある。

三  成婚料について

控訴人、被控訴人間の本件仲介契約において、いわゆる成婚料の支払約束があったことは当事者間に争いがない。ところで、成婚料は、前記のような控訴人と被控訴人との間の本件仲介契約の趣旨と内容に照らすと、原則として中国人女性との見合い、婚姻の合意を経て中国側の結婚登記が完了し、その証明書に基づき日本における男性の戸籍に中国人女性の入籍が完了したときに支払義務が発生すると解するのが相当であり、被控訴人において現実に中国人女性の来日と同居を実現すべき義務を負っていると認めるべき証拠はない。もっとも、婚姻は両性の同居、協力扶助を基本とし(民法七五二条)、前掲「国際結婚申込誓約書」(原審甲事件甲三)によれば、被控訴人としては中国人女性側の事情により成約に至らなかった場合には被控訴人が責任をとるとの約定があることを勘案すれば、日本戸籍に入籍しても中国人女性が来日せず、又は同居に至らなかったことについて、仲介者たる被控訴人の責に帰すべき事由がある場合には成約に至らなかった場合と同視して、男性側としてはそのような事情が解消するまでは成約料の支払を拒絶できると解する余地はある。しかるところ、本件全証拠によっても、乙梨花が来日せず、控訴人との同居が実現していないことについて被控訴人の責に帰すべき事由があるとは認めることができない。かえって、証拠(当審における甲八、九、原審乙事件における乙三、原審における甲事件相原告遠井里英並びに原審及び当審における控訴人及び被控訴人の各本人尋問の結果)によれば、被控訴人は乙梨花に日本への渡航費を渡すなど所定の来日の準備を行い、乙梨花も早急の来日を希望していること、控訴人は帰国後乙梨花に対し日本語を覚えてから来日するようにとの手紙を出しながらその後気が変って乙梨花と同居して結婚生活を営む意思を失い、乙梨花から在留資格認定の手続や出迎えを促す手紙などが届いているのに返事も出さず、乙梨花の在留資格認定証明書発給の手続にも動こうとせず、被控訴人からの問い合わせにも返答せず、電話番号を変えるなどして連絡を絶ってしまったため、結局乙梨花としては来日ができないままとなっていることが認められる。そうすると、本件の場合には乙梨花が日本戸籍上は入籍しているが、来日、同居が実現していないのは専ら控訴人に責任があり、仲介者たる被控訴人の責に帰すべき事由はないから、控訴人としては、被控訴人からの成婚料の支払を拒絶できないというべきである。

そうすると、成婚料三〇万円の支払を求める被控訴人の請求も理由がある。

第二  乙事件

一  控訴人は、本件仲介契約の内容の中には、官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類を作成する行為が含まれており、被控訴人は、国際ビジネスセンターと称して、これらの書類作成行為を不特定多数の者から対価を得て依頼を受け、反復継続しているものであるから、行政書士法一九条一項に違反し、強行法規に違反し公序良俗に反するから無効な契約というべきであるとの主張をする。

しかし、本件仲介契約は控訴人と中国人女性との婚姻の斡旋仲介を主たる目的とするもので、諸官公署への書類の作成、提出、取得の援助や代行は右の本来の目的を達成するために付随的に行われたものに過ぎず、しかも、前記認定事実及び証拠(原審甲事件乙二、当審甲八)によれば、被控訴人の国際結婚仲介業において官公署に提出する書類作成や申請などの手続代行に関しては、本件を含め、個別的に依頼を受け、実費を得て行われており、これらの官公署への書類作成を専ら業としてなしているものではない。したがって、被控訴人がそれらの書類の作成等を代行したことが直ちに行政書士法違反に当たるとは解しがたい。そうすると、本件仲介契約の中には行政書士法違反の部分があり、本件仲介契約が公序良俗に反する無効のものであるとの控訴人の主張はその前提を欠くもので、失当というべきである。

二  控訴人は、本件仲介契約の内容としては、結婚した中国人女性の入籍だけでなく、被控訴人側において結婚した中国人女性を円滑に日本に来日させ、控訴人と同居させるための諸々の手続(在留資格の取得等を含む)も含むと解すべきであるとの主張をする。しかし、前掲各証拠によれば、本件仲介契約における被控訴人の債務としては、中国人女性が日本人男性と婚姻して中国国内における所定の手続を済ませ、来日に必要な準備(来日のための渡航費用を渡すことを含む。)を整えることで足り(成婚料の支払を受けるためには中国人女性の日本における入籍完了が要件となることは別問題である。)、それ以上に、日本での中国人女性の在留資格認定証明書の取得や来日までの飛行機の予約、出迎え等の手続が本件仲介契約の内容となっているとは認められない。のみならず、被控訴人は乙梨花に日本への渡航費を渡すなど所定の来日の準備を行い乙梨花も早急の来日を希望しているが、その後控訴人側において気が変わり乙梨花と同居して結婚生活を営む意思を失い、乙梨花の在留資格認定証明書の発給の手続等自らなすべきことをしない結果、乙梨花の来日が実現しないままとなっていることは前記認定のとおりである。そうすると、控訴人の債務不履行による本件仲介契約の解除の主張もその前提を欠くものであって、採用できないというべきである。

第三  結婚

以上の次第で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官荒井史男 裁判官大島崇志 裁判官豊田建夫)

別紙〈省略〉

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